「元気です」は要注意~鬱病2~
うつ病についてもう少し説明します。うつ病は、眠る時間も足りないほど働いて疲労がたまり、それがきっかけで発症することはほぼ間違いありません。
しかし、それだけではないのです。当人の性格も関係していることも否定できません。「きちょうめんで完ぺき主義」。ほどほどということを好みません。「執着性格」といわれています。
さらに何のきっかけもなく発症することもあるのです。
また、再発を繰り返します。再発を繰り返すことを忘れて「すぐ治る」と医者が言うのは軽率です。うつ病にかかっているときには、神経伝達物質の脳内での伝わり方の不具合が起きていることが最近になり明らかになってきています。
刺激を受けたとき神経終末に蓄えられていた神経伝達物質のセロトニンやアドレナリンが放出されて、100万分の1ミリメートルという狭いすき間(これをシナプス間隙といいます)を漂いながら次の場所(これを受容体といいます)に移動します。
ところが、うつ病の患者では移動できずに最初の場所に戻ります(これを再取り込みといいます)。その結果、セロトニンとアドレナリンが不足し、うつ病になるのです。こういうことが分かってから、うつ病は体の病の一種ともいわれています。
この「再取り込み」を防止する薬剤が開発され、改良を重ね、うつ病の治癒率が高まりました。しかし、再発することもうつ病の特性ですから薬は医師と相談して服用し続けなければなりません。
うつ病患者が自殺したとき、周りの人が気づかないことが多いとすでに述べましたが、それには理由があるのです。「ほどほど」ということを好まないうつ病患者は、どんなときでも医者の前では「元気です」と言います。「ああそうですか」と医者も真に受けます。
その翌日にうつ病患者が自殺することはまれではないのです。わかりやすく言いますと、うつ病患者はその特性が災いして、自分でも気付かずに元気そうにふるまい、自分を追いつめているのです。
職場の同僚や家族に責任を負わせるのは酷です。「先生、元気ですよ」と患者が言っても、「そうかな」と疑い、自殺を防ぐのが精神科医の役割です。皆さんも忘れないでください。
こちらの特集は神奈川新聞に掲載された『大丈夫ですか?心と体』を当院ホームページ用に再構成したものです。
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